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パンアリエ 森様
妻の実家がパン屋だったこともあり、結婚後に他業種からパン屋の道へと進みました。富山のパン屋って、出所が同じ系列のパン屋だったりすることが多いんですが、僕は“富山にない”味や製法を学びたいという気持ちがあったので修業先は県外に目を向けました。
就職したのは、求人の出ていた大阪のパン屋です。その店では、野菜をふんだんに使ったタルティーヌを主力商品として売り出していたのですが、富山で見たことのないパンのスタイルにかなり衝撃を受けました。「この店の野菜パンの技術を習得して、早く自分のアレンジで作ってみたい!」という気持ちがどんどん強くなり、休みの日は系列店舗に出向いてパン作りの技術を必死に磨いてきました。
もともと店を出すなら地元で、と考えていたので、大阪のパン屋で3年間働いた後に富山へ帰ってきました。地元に帰ってきたからには“富山”にとことんこだわっていきたい。富山の水や富山の土で育った野菜のパンを作りたいと思ったんです。富山の素材を使ったパン作りって、大阪で培ったパンの技術を持つ“僕にしか作ることのできないパン”になるかなと思って。
僕の作るパンはできるだけ添加物を使わず、顔の知れた農家さんの素材を使うことを心掛けています。“自分の子供に食べさせても安心できる、安全な素材を使うこと”が僕のパン作りの芯となる部分です。
というのも、うちの子供は添加物の入ったお菓子などを食べると、身体に発疹ができてしまう体質なんです。子供たちが何かを食べようとするときに「それは危ないからダメ!」といちいち言うことなく、安全に食べさせられるものがいい。そんな気持ちでパンを作っていこうと思ったんです。
また、無添加について知っていくうちに、安全安心な食の知識をお客様にお伝えしたいと思うようになりました。白砂糖など精製されたものはお腹で消化する際にミネラルやビタミンを使ってしまうのですが、いくらミネラルを摂取しても、添加物によってお腹の中で相殺されてしまったら意味ないんですよね。このような知識の部分も、いつかお客様へ伝えていけたらいいかなとも考えています。
僕たちのパンへの思いを店名にも表わした方が良いと考え、店名は「パンアリエ」と名付けました。フランス語で「Pain=パン、allier=結ぶ・調和」という意味を持ちます。僕たちのパンを通して、パンの素材を作る農家さんや業者さん、お客様が繋がっていってほしいという願いを込めました。
私たちの店「パンアリエ」をたくさんの方々に知っていただくためには、ロゴマークも必要なのでは、ということで妻の知り合いであるデザイナーのパドルアンドチャート大谷さんにロゴマークの相談をしました。
大谷さんはロゴを作るにあたり、まずは富山県内の競合店を調査してくれました。富山にはどんなパン屋さんがあるのか、富山のパン屋さんのロゴマーク、パッケージ、制服はどんなものなのかを調べ、私たちに見せてくれたんです。小麦、パンを焼く姿、フランスパンをモチーフにしたイラスト、店名……パン屋のロゴマークの傾向はこのようなものでした。という具合に、それらを踏まえた上で「パンアリエがどんなパン屋で、どうやってお客さまに知ってもらいたいのか」をさらに検討していったのです。
大谷さんは「“パンアリエ”の商品は、素材にこだわりひとつひとつ丁寧に作られているところが魅力です。安心して食べていただける手作りの良さ、そして多くの人がパンアリエのパンを食べてほっこりとした温かい笑顔に包まれる店になればいいですね」とおっしゃってくださいました。「ロゴマーク制作はその思いを反映すべく、奇をてらうものではなく、手作り感と温かさをキーワードに進めてみましょう」と提案してくれたのです。
ロゴの制作は大谷さんの指示のもと、別のデザイナーさんによって既成フォントを使わず、温かみの感じられる手書きのフォントで作り上げられていきました。出来上がったのは、小麦が輪を描いて、中に手書きの店名が入ったものでした。「パンの原材料である小麦をモチーフに、お客様のおいしい笑顔の輪が生まれるようなイメージで作りました。色は“調和(=allier)”という意味を持つネイビーを採用しました」と大谷さん。
これを見たときに、自分たちのパンや店に対する想いがとても反映されたロゴマークだと感じました。
もともとロゴマークカラーのネイビーは僕の大好きな色だったので、お店の内装にも使いたかったんです。でも設計士さんから「食品を扱う店がブルー系を使うのは好ましくない」と言われたので、大谷さんにロゴのほかにもネイビーが店のどこかに使えないかと相談しました。「それなら制服でしょう!」と。そこで初めて、大谷さんの知り合いである「チームワークアパレル」さんのカタログを手にしたのです。
制服を選ぶ際、大谷さんからは「制服は作業着でもあるけれど、ロゴマークと同様、お客様にパンアリエの想いを伝えるためのツールでもあるんですよ」と伝えられました。正直、制服は地元のユニフォーム屋のカタログから選ぶつもりでいたので、自分たちの想いをお客様に伝える…それを制服に込めるというのは一体どういうことなのか正直なところ、よくわかりませんでした。
Tシャツ、パンツ、エプロン、帽子。制服として必要なものは、そのくらいだと思っていました。「自分が制服を選ぶと着たいものしか選ばないだろうし、洗濯しやすいものを優先するはず」。そう大谷さんに伝えると「お客様からスタッフはどのように見られているのかわかりますか? 人は動きを目で追う性質があります。スタッフが動くと、そこにお客様は目がいく。つまり人の体を見ているんです」と言われ、ハッとしました。自分たちがお客様から見られていることなんて、これまで考えもしていなかったからです。
ただカタログから何も考えずに制服を選び、そこにロゴマークをのせるだけではお店らしさなんてお客様に伝わることはないでしょう。自分たちのアイデンティティが詰まっているロゴマークを、どこにどのように入れるか、大谷さんに相談しました。
「まず制服には、キーカラーのネイビーですが、ネイビーを使うのは全身ではありません。あくまでワンポイントとして採用し、トップスは清潔感のある白のボタンダウンシャツで色の強弱をつけます。ネイビーのエプロンには、ロゴマークを大胆に入れましょう。スタッフは動く広告塔です。これが“お客さんに見てもらうデザイン”です。エプロンには右利きのスタッフが利用しやすいよう右ポケットを付けましょう。左側に着くポケット部分には大きくロゴマークを入れます。ロゴが印刷しやすいよう、左のポケットは外して、シャツの左胸に移植してみてはどうでしょうか。白いシャツにネイビーのポケットがつくことで、ネイビーがより映えて見えますよね」
制服、ロゴはお客様に対して見せるものという観点から、制服の仕様がどんどん組み立てられていきました。ロゴマークが大きいと少し品がないようにも思われがちですが、エプロンやシャツの袖にロゴが入ったイメージ図を作成していただいたおかげで何度も検討できたのが良かったですね。実際に入った様子が想像しやすかったです。
女性スタッフの制服に採用したエプロンは、エレガントさが感じられる形を取り入れました。またファッション性の高いベレーも着用しています。被ることで清潔感が出るとともに、スタッフの表情をお客様にしっかりと見せる役割も担ってくれています。
この制服のおかげでスタッフとの連帯感を感じられたのは、大きな収穫でした。完成した制服を見てスタッフたちも大喜び。この制服を着ることで「いよいよパンアリエの一歩が始まるという気持ちが湧いてきた」とも言っていました。スタッフがみんなと同じ制服を着ることによって、同じところへ向かっていくという意識が出てきたのかなと思いました。
みんなが同じものを着ているので、スタッフ同士「今、エプロンのひもどうなってる?」と、お互いの身だしなみをチェックし合えていたりするのも後々発見した利点だと思います。身だしなみは僕たちの店のルールのひとつです。「スタッフの意識向上は、いい店づくりの要素になる」、これは制服を着て強く実感したことです。
僕もプロとしての気持ちが一層引き締まるとともに、自分自身が働くモチベーションにも繋がりました。プライベートとの気持ちを切り替えるにも、今では必要不可欠なものとなっています。少ない予算の中で、最大限のアイデアを用いてコーディネートしていただいた制服は、とてもオリジナリティのあるものになったと思っています。
お客様が店に来られた時、スタッフ皆が揃った制服を着用してお迎えすることは、お客様へのサービス精神を感じていただくことができるとも感じました。不揃いな服装よりもきちんとした制服で迎えられる方が嬉しい気持ちがしませんか?
オープンしたあと、設けたルールがあります。それは「パン一つからでもお取り置きができる」というものです。インスタグラムからのダイレクトメッセージなどからもパンの取り置きを受け付けています。これはとても非効率なことかもしれないのですが、いつでもうちのパンを気軽に手に入れて欲しいという気持ちから思いついたことなんです。
例えばお母さんが子供にパンを食べさせたいと思っても、一個しかいらない時ってきっとあると思うんです。でもお店に入って、一つだけ買って帰るのは気が引けますよね。僕は一つでもいいので、子供たちが安心して食べられるパンを提供したい。一つでもお客様の食卓に僕たちのパンを置いてほしい。パンアリエのスタッフがお客様へ思いやりを持ってパンを売ることが、僕たちの店にとって大事なことなのではないかと気づきました。
お店にとって大事なのは、コンセプトを反映できる制服を作る事だと思います。高価であったり、オーダーメイドである必要はないです。想いをカタチにしたロゴマークがあり、お客様をおもてなす為の制服がある。そんな私たちが作る、地元の食材にこだわった、自然の恵みを生かしたやさしいパン。これらすべてがあって「パンアリエ」らしさを確立できたのでは、と思っています。まだ小さいコミュニティではありますが、今後はパンアリエのパンを通して、多くの人との繋がりが生まれることを楽しみにしていきたいと思っています。
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